山本勘太夫社中では、古来より11月から12月に掛け、岡山県笠岡市・浅口市近辺を回檀しています。
また、近年は各地の催事への招聘が増えた事で度々地方への遠征を行っています。 去る11月第二土日、公演・総舞奉納のため兵庫・滋賀・三重へと遠征を行ってきました。 本写真記事では11月12日に実施された三重県伊勢市朝熊町”相生神社”での総舞をご報告致します。
本来、お伊勢参りが叶わぬ遠隔に住まう地方の人々のため、発展を遂げた伊勢大神楽の歴史において、地元でありながら主たる活動圏ではない 三重県での認知は決して高くはありません。近年の活動実績を受け地方より三重への『逆輸入』のような形での招聘が増えてきています。
古式に則り、まずはご祭神へのご挨拶を兼ねた『鈴の舞』の奉納から始まります。
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△劔の舞/四方の舞/跳びの舞(舞手:山本大貴・山本真之介/猿田彦役:山本笙)
伊勢大神楽の総舞における基本演目と言える、三演目です。獅子や猿田彦の技術は日々の旅の中で磨かれていきます。 昨年入門の若手大神楽師たちが奉納しました。
△綾採りの曲(放下師:山本春太夫/道化師:山本勘太夫)
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△水の曲“半水・突き上げ・皿の曲・枠皿・鯛釣り”(放下師:山本真之介・山本春太夫・山本八太/道化師:山本勘太夫)
日頃、伊勢大神楽を目にする機会の少ない伊勢での総舞という事もあり、放下芸の基礎である水の曲を全5演目披露しました。いわゆる芸者である放下師が修練を重ねた放下芸を披露する間、もどき芸や掛け合い萬斎(漫才)を役割とする道化師が、放下師のすぐ傍らでふざけにふざけます。 『大神楽』に上品な拍手は似合いません。人目を憚らず皆が気楽に、大声で笑いながら見て良いのです。
△神来舞“石川源太夫系山城修流三段”(舞手:山本勘太夫) 古来より新年のはじめには、滋賀県への旅に出る家元が大半であった伊勢大神楽において唯一、地元の回檀を行ったのが旧石川源太夫社中でした。この度の伊勢での奉納に合わせ、伊勢の地にゆかりある石川源太夫系山城修流の神来舞を奉納致しました。太古より伊勢の国を見守り続けた相生神社のご祭神に、現代を生きる伊勢大神楽の舞がきっと届いた事でしょう。
△献燈の曲(放下師:山本春太夫/道化師:山本勘太夫)
△神来舞“山本勘太夫流三段”(舞手:山本大貴・山本笙)
平時の総舞では異例となる二演目の神来舞です。佐々木金太夫流・旧式山本源太夫流を軸に近世伊勢大神楽のあらゆる古式の舞手が結集し、平成の時代に二頭舞の最善手を目指して磨かれた流派が、この山本勘太夫流神来舞です。先の石川源太夫流に加え、伊勢大神楽の“今”をご祭神に奉納しました。
△劔三番叟(放下師:山本八太/道化師:山本勘太夫)
△魁曲(上乗:山本春太夫/台師:山本八太)
90分に及んだ相生神社総舞の最後の締め括りは、やはり花魁道中こと魁曲です。
本来、お伊勢参りの賑わいを表現した演目であり演目の最後には、お馴染みの道中伊勢音頭(別れの唄)が唄われます。
伊勢大神楽の総舞の終了と共に相生神社の催事も無事終了となりました。 写真撮影や獅子の頭噛みも行われ、地方では伊勢の文化として当然のように受け入れられているものが、馴染みなき地元では新鮮な反応で受け入れられ、一向にとっても非常に貴重な体験になった様子でした。 一期一会の出逢いに感動しつつ、旅する獅子は旅から旅へ。 山本勘太夫社中は西へ。“岡山は備中国の旅”へと帰って行きました。